LOH症候群・男性更年期とは
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LOH症候群の手引き
男性更年期 LOH症候群とは
男性ホルモンであるテストステロンは、男性の身体機能や精神機能の維持において重要な役割を果たします。しかしながら、年齢を重ねるにつれて、テストステロンの量は徐々に減少していきます。また、生活習慣やストレスなど外部の要因によってもその量に影響が及びます。テストステロンの低下は、筋肉の減少や筋力の低下といった状態(サルコペニア)と密接に関連しており、さらには狭心症、動脈硬化、肥満、メタボリック症候群、認知症など、多岐にわたる疾患の成因や予防にも影響を及ぼしています。このようなテストステロンの低下とそれに伴う臨床症状を持つ疾患は、加齢男性性腺機能低下症候群(Late Onset Hypogonadism; LOH症候群)と呼ばれています。テストステロン及びその代謝物の作用は広範にわたります。特に思春期においては、第2次性徴の発現に欠かせない役割を果たします。性欲の増進、筋肉の発達、声変わり、体毛や精子の形成など、多くの生理的機能に関与しています。成人男性においても、テストステロンは筋肉量と強度の維持、内臓脂肪の減少、造血作用、認知機能の維持などに必要です。テストステロンの低下はインスリン感受性の低下、メタボリック症候群のリスク増大、性機能や認知機能の障害、気分障害、内臓脂肪の増加、筋肉量の減少、貧血、骨密度の低下など、男性の生活の質(QOL)を大きく低下させる可能性があります。中高年の就労中男性の約10%が男性更年期障害の症状に悩まされているとの報告もあり、LOHは社会的、経済的な観点からも、特に40代後半からの発症が多いとされ、注目されています。
思春期の始まりには、視床下部がGnRH(性腺刺激ホルモン放出ホルモン)を分泌し始めます。このホルモンは下垂体を刺激して、LH(黄体化ホルモン)とFSH(卵胞刺激ホルモン)の生産を増加させ、結果としてテストステロンの生成を促します。テストステロンのレベルは約20歳まで上昇し続けた後、徐々に減少し始めます。年齢を重ねるにつれて、精巣内の精細管の数が減少し、ライディッヒ細胞とセルトリ細胞の数も減ります。これにより、テストステロンの生成能力が低下します。40歳での人々の2-5%、70歳では30-70%でテストステロン値の低下が観察されています。
血中のテストステロンの約98%は性ホルモン結合グロブリン(SHBG)やアルブミンに結合しており、残りの1-2%がフリー(遊離)テストステロンとして存在します。テストステロンは、体内で5α-リダクターゼの作用によりDHT(ジヒドロテストステロン)に変換され、より強力な活性を発揮します。また、DHEA(デヒドロエピアンドロステロン)もテストステロンやDHTに変換されて作用すると考えられています。テストステロンやDHTはアンドロゲン受容体と結合し、標的遺伝子の活性化を通じて様々な生理的機能を果たします。
肥満は性腺機能低下の一因とされています。BMIが30 kg/㎡以上の人々は、それ未満の人々に比べて総テストステロンとフリーテストステロンの値が低いことが知られています。年齢に伴うテストステロンの減少は、SHBGの増加とも関連しており、フリーテストステロンの減少がより顕著になります。肥満、糖尿病、メタボリックシンドロームではSHBGの血中濃度が低下するため、これらの状態では総テストステロンが相対的に低下しやすくなります。
LOHの症状
加齢男性性腺機能低下症候群(LOH)では、全身の倦怠感や性欲の低下、やる気の不足、勃起障害(ED)、集中力の散漫、不眠、イライラ、肩こり、排尿の問題、頭が重い感じ、早朝の勃起が少なくなるなど、多種多様な症状が現れます。加えて、加齢に伴うテストステロンの減少は、抑うつ状態、性機能の低下、認知能力の減退、心血管疾患、内臓脂肪の増加、インスリン抵抗性の悪化、善玉コレステロール(HDL)の低下、総コレステロール値と悪玉コレステロール(LDL)の上昇など、さまざまな健康問題のリスクを高めます。これらは心臓病や糖尿病、メタボリック症候群といった疾患のリスク因子となるため、注意が必要です。
LOHの診断がされた場合、メタボリック症候群、動脈硬化、糖尿病、高血圧、高脂血症、肥満など、背後にある生活習慣病も考慮に入れ、適切な検査や治療を行う必要があります。
LOHの症状の評価には、国際的にAging Males’ Symptoms (AMS)スコアが広く使われています。これは、精神的・心理的な側面、身体的な側面、性機能を含む17の項目からなる自己評価式のスコアで、各項目は5段階で評価されます。スコアの合計が26以下であれば正常、27から36で軽度の症状、37から49で中等度の症状、50以上で重度の症状と分類されます。AMSスコアは、テストステロン補充療法の効果を追跡するためにも役立ちますが、感度は高いものの特異度が低いとされています。
LOHの診断においては、総テストステロン値の基準値を250ng/dL、遊離テストステロン値を7.5pg/mLとすることが日本の指針で示されていますが、テストステロン値には個人差が大きく、LOHと診断するための一律の基準は確立されていません。重要なのは、総テストステロンや遊離テストステロンの値だけでなく、臨床症状も含めた総合的な判断を下すことです。
表1 Aging males’s symptoms (AMS)スコア
加齢男性の性腺機能低下症候群の手引きより引用
男性ホルモンであるテストステロンは、男性の身体機能や精神機能の維持において重要な役割を果たします。しかしながら、年齢を重ねるにつれて、テストステロンの量は徐々に減少していきます。また、生活習慣やストレスなど外部の要因によってもその量に影響が及びます。テストステロンの低下は、筋肉の減少や筋力の低下といった状態(サルコペニア)と密接に関連しており、さらには狭心症、動脈硬化、肥満、メタボリック症候群、認知症など、多岐にわたる疾患の成因や予防にも影響を及ぼしています。このようなテストステロンの低下とそれに伴う臨床症状を持つ疾患は、加齢男性性腺機能低下症候群(Late Onset Hypogonadism; LOH症候群)と呼ばれています。テストステロン及びその代謝物の作用は広範にわたります。特に思春期においては、第2次性徴の発現に欠かせない役割を果たします。性欲の増進、筋肉の発達、声変わり、体毛や精子の形成など、多くの生理的機能に関与しています。成人男性においても、テストステロンは筋肉量と強度の維持、内臓脂肪の減少、造血作用、認知機能の維持などに必要です。テストステロンの低下はインスリン感受性の低下、メタボリック症候群のリスク増大、性機能や認知機能の障害、気分障害、内臓脂肪の増加、筋肉量の減少、貧血、骨密度の低下など、男性の生活の質(QOL)を大きく低下させる可能性があります。中高年の就労中男性の約10%が男性更年期障害の症状に悩まされているとの報告もあり、LOHは社会的、経済的な観点からも、特に40代後半からの発症が多いとされ、注目されています。
テストステロン補充療法の効果
テストステロン補充療法は、筋力の向上、骨の健康、代謝の改善、うつ症状の軽減、性機能の向上、そして全体的な生活の質(QOL)の改善など、幅広い効果をもたらします。特に、60歳を超えると半数以上の人に見られる筋肉量の減少(サルコペニア)に対して、この治療は筋肉量を増加させ、体脂肪を減少させる効果があります。また、2型糖尿病やメタボリック症候群の改善にも効果があるとされています。テストステロン補充療法を受けた2型糖尿病を持つ肥満男性では、血糖値、HbA1c、総コレステロール、LDLコレステロール、中性脂肪の減少や血圧の改善が報告されています。さらに、うつ症状や勃起不全(ED)、性欲の低下など性関連の症状にも改善効果が認められています。
日本では、エナント酸テストステロン(エナルモンデポ)という注射剤や、男性ホルモン軟膏(グローミン)といった一般用医薬品が使用可能です。自費診療ではテストステロンクリームも使用されています。通常、テストステロン補充療法では2〜4週間ごとに125〜250mgのエナルモンデポを投与し、患者の症状や年齢に合わせて量や間隔を調整します。妊娠を希望する場合は、異なる治療法が適用されます。治療の効果は3ヶ月ごとに評価し、継続するかどうかを患者と相談しながら決めます。
テストステロン補充療法の副作用には、多血症、心血管疾患、睡眠時無呼吸症候群、脂性肌、にきび、乳房痛、肝障害、不妊などがあります。特に多血症は、治療による血液中のヘモグロビンやヘマトクリット値の上昇に関連しています。心血管疾患に関しては、テストステロン補充療法が直接リスクを高めるとは言えないものの、心疾患のある患者への使用は慎重に行うべきです。また、テストステロン補充療法が前立腺癌のリスクを高めるかどうかについては、否定的な見解が多いですが、治療中は定期的な血液検査と効果の評価、多血症や心血管疾患のリスク管理、前立腺特異抗原(PSA)値のフォローが重要です。