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2024.04.04
総テストステロン値および遊離テストステロン値からみた肥満とLOHとの関係
明比 祐子
新古賀クリニック糖尿病・甲状腺・内分泌センター
日本における肥満はBMI(body mass index)25.0 kg/㎡以上と定義されている。
BMIはSHBG(sex hormone binding globulin)と負の相関関係にあることが、以前から報告されており1)、その機序として脂肪細胞から生成分泌されるTNF-αなどの炎症性サイトカインが肝臓でのSHBGの生成を抑制することなどが報告されている2) 3)。
肥満によりSHBGが低下することから、血中遊離テストステロン(FT)は正常範囲であっても総テストステロン(TT)は低い値を示す肥満者が存在する4)と考えられる。
そこで実際の自験データを元に、TTとFTとの関係に対するBMIの影響を検証してみた。 検診を受診した40~64歳の男性232名を対象に、TTをX軸、FTをY軸にとり、相関をみてみると、我々の既報5) のように正の相関関係が認められる(図1、未発表データ)。
グラフ上、BMI 25未満を青、BMI 25以上かつ30未満の対象者73名をオレンジ色に、BMI 30以上の5名を黄色で色分けしてプロットしてみると、BMI 25以上ではTT 8.0 ng/mLを超えず、確かにTTは低めに抑えられているものの、TTとFTとの関係は意外に全体の相関とずれていないことがわかる。ということは、LOHを診断する上で、FT値ではなくTT値を用いることに、肥満の有無による特別な配慮をしなくてもよいということなる。
さらにBMI 30以上では、該当者5名で断定的なことは言えないが、TT 5.0 ng/mLを超える者はなく、かつFT値も相対的に低く抑えられており、高度肥満ではGnRH・LH生成分泌の低下(続発性の性腺機能低下)によりTTだけでなく、FTの低下も起こるという過去の報告4) 6)に矛盾しないと考えられる。
次に、図1のグラフ上、近々改訂されるLOHの診断・治療の手引き案で提案されているTTとFTのカットオフ値、それぞれ2.5 ng/mLと7.5 pg/mLに線を引き、A~Dの4つのグループに分けてみた。なおここでのFTはRIA法による測定値である。
AとBはTT 2.5 ng/mL未満を満たすグループで、検診受診者232名中6名(2.6%)が該当した。TT 2.5 ng/mLは日本人一般男性の-2SDに相当することから、この2.6%は妥当な数字と考える。さらにこの6名中5名はBMI 25 kg/㎡以上であり、TT低下の背景のひとつに肥満の要因があることが示唆された。またグループA (FT 7.5 pg/mL以上)に該当するのは1名(BMI 29.9 kg/㎡、FT 8.2 pg/mL)のみであり、TT 2.5 ng/mL未満であれば、FTもほぼ同様に低下していると考えられる。
一方、TT 2.5 ng/mL以上で、かつFT 7.5 pg/mL未満を満たす者をグループDとしみてみると、TT 2.5 ng/mL以上を呈した226 名中35名(15.5%)、全体の検診受診者232名中ちょうど15%がここに該当した。すなわち、FT 7.5 pg/mL未満はTT 2.5 ng/mL未満より、比較的ゆるいカットオフ値ということになる。
肥満者に対するテストステロンの補充の適応については、少なくとも減量によりテストステロンの生成分泌の改善が期待できるため賛否があり、補充前に十分な検討が必要と考える。
以上はあくまでも自験データに基づく私見だが、先生方の今後の診療の一助になれば幸いである。
引用文献
1. Cooper LA, et al. Clin Endocrinol. 83:828-33, 2015 2. Simó R, et al. Diabetes. 61:372–382, 2012 3. Simó R, et al. Mol Endocrinol. 26:1917–1927, 2012 4. Grossmann M. Clin Endcrinol. 89:11-21,2018 5. Tanabe M, et al. Endocr J. 62:123-32, 2015 6. Kley HK, et al. Horm Metab Res. 13:639-641, 1981